海外ドラマ

ウディ・アレンの6つの危ない物語

ロックで始まるウディ・アレン初のテレビドラマは『バナナ』の続編?

CRISIS IN SIX SCENES
2017年 カラー 全6話(各役25分) Amazon Prime
監督・脚本・主演:ウディ・アレン
出演:ウディ・アレン、エレイン・メイ、マイリー・サイラス

 ウディ・アレンの新作がアマゾンで突如配信されてびっくり。てっきりオムニバスものかと思ったら、違ってた。各約25分の6話なので合計2時間30分、いつも90分前後がほどよいアレン・コメディとしてはちと長いけど、2晩に分けて楽しめば逆にお得だ。

 1960年代後半のお話。ニューヨーク郊外の一軒家に住むJ・S・マンシンガーは、コピーライターとして成功し小説がベストセラーになったこともあるが、いまはテレビの連続ドラマを企画中。妻のケイは精神科医で毎週木曜日に近所の主婦を集めてブッククラブを開いてる。ある夜、ケイが幼少時に世話になった家の娘レニーが逃げ込んできた。彼女は世間を騒がせている合衆国憲法解放軍の闘士で指名手配犯なのだ。ケイは夫の反対を押し切って彼女をかくまうことにして、危険な任務まで引き受ける。一家に下宿している銀行家の息子アランはレニーに感化されて政治活動に目覚めて爆弾製造を始める始末……。

 80歳を過ぎたウディとエレイン・メイが、たぶん60代ぐらいの夫婦を演じているので少々舌の回りが怪しいのだが、気になる人は日本語吹き替えを見てもいいだろう。しかし、久しぶりに真面目なウディ・アレンを見ることができてとても幸せな気分になった。
 ブッククラブの保守的なおばあさんたちがすっかりマルクスや毛沢東にはまってAK47を目隠しして組み立てたり偽造パスポートを作ると言い出したりするくだりは大爆笑だし。危機一髪の場面で登場した警官(マイケル・ラパポート)がJ・S・マンシンガーをある有名作家と取り違えてくれたのでサインをして逃れるのも秀逸だ。

 アレンは昔ピーター・セラーズのギャグを書いていて認められて世に出たのだが、基本的にユダヤ人の立場から世の中に対して、不平や不満……ってほどではないにせよ「そこがへんだろ」と言い続けているし、ぺちゃくちゃ喋り捲ってなんだかうるさいんだけど最後には「でもニューヨークが好きなんですよ」「映画が好きで」「音楽が……」「女性が……」「パリも……」(以下略)と自分が好きなことへの愛情をあけっぴろげにして終わることが多い。最近は出演を控えて若い役者や自分そっくりの俳優に演じさせたりしてるが、80歳を過ぎて初めて(得意の)監督・脚本・主演を兼ねた子の作品には、どうやら彼の想いが込められてるように見た。
 アレンが演じる主人公は保守的で俗物で、勝手なことばかりする若者を否定している。立場的には大人代表の“悪役”を演じながら、実は脚本も演出も自分なのだから手のひらの上で優しく社会運動家やそれに目覚める老人たちを元気づけているわけだ。

 ウディ・アレンは昔から真面目だった。『ウディ・アレンの ザ・フロント』(76)はアメリカの赤狩りについての映画で、どうみても当時売り出し中だったアレンがマーティン・リットのために出演してあげたとしか思えない真面目な映画だった(いちおうコメディだけど)。
 キューバに密航しようという若者を助ける今回の話は、失恋して中南米の独裁国家へ渡ってしまうアレン初期の革命コメディ『ウディ・アレンのバナナ』(71)を思い出させる。それは何やらキナ臭い現代のアメリカ社会(たとえばトランプ)への批判であり、若者たちへのエール&はっぱじゃないだろうか。ドラマの中で引用される毛沢東やフランツ・ファノン(アルジェリア独立運動で知られる政治活動家)の言葉が、どれほど今の観客(ネット視聴者)に響くかはわからないが、ウディ・アレンは初めてのインターネット配信作品に若者へのメッセージを込めたに違いない。映画やDVDでは、今までの自分のファン(あるいは出演者のファン)しか見ないが、アマゾン・プライムなら普段アレン作品なぞ見ない人たちにも伝えられるかもしれない、と。

 第1話で時代背景を説明するオープニング部分に流れるのはジェファーソン・エアプレーンだ。アレン作品でいきなりロックがかかるのは画期的ではないだろうか。以後はジャズだが、いつものノスタルジックなものではなくモダンジャズ中心、NHKの教養番組のような有名曲ばかりで若者でもなじみやすいよう配慮されている気がする。活動家役のマイリー・サイラスはディズニーの「ハンナ・モンタナ」シリーズで知られるアイドルだし。

 妻の名前が「ケイ」なので、反射的にかつての妻(でいろいろ活動的だった)ダイアン・キートンがモデルになってるのかなと思ったのだが、よく考えたらキートンが演じたのは「アニー」(アニー・ホール)だ。ケイは『ゴッドファーザー』でのキートンの役名でした。関係ないけど。

by 無用ノ介