The Sunshine Makers

世界平和を夢みてLSDを製造していた男たち!

The Sunshine Makers <N>
2015年イギリス 92分
監督:コスモ・フェールディング・メレン ネットフリックスで放映

 世界平和を夢みて町中で秘密裏に“愛のドラッグ”LSDを製造していた男たち――60年代から現代までつながるアメリカの「裏」大河ドラマにして、実録版『ブレイキング・バッド』みたいなもので、いかにもマーティン・スコセッシが映画化しそうな話なのだが、最近のスコセッシ映画を観る限り、こっちのドキュメンタリーのほうが面白いだろう。

 1960年代後半に「オレンジ・サンシャイン」の名で人気のあったLSDを作っていたニック・サンドとティム・スカリー。サンフランシスコとニューヨークでそれぞれLSDを体験した後、LSDの発明家とされるオーズリー・スタンリーと知り合って製造を請け負うようになる。このオーズリー・スタンリーは一般的には知られていないがグレイトフル・デッドの心臓部みたいな人で、LSDが禁止になるとオーディオシステムを研究してデッドサウンドを構築、あだ名は「ベア」だった。彼が作ったLSDのひとつ「パープル・ヘイズ」があって、ジミ・ヘンドリクスがそれをキメながら有名な曲を作ったとされてる。
 
 当初、LSDはなんだかわからない幻覚剤として心理学者や経済学者からCIAまでが利用法を研究していた。ニックとティムは「世界中の人がLSDをやれば平和な世界になる」と、ビリー・ヒッチコックなる大金持ちの支援を受けてLSDを作り皆に無料で配ろうと考えた。「サイケデリック・ウォリアー」と称して。が、ヒッピーの集団「愛の兄弟団」が彼らのLSDを売りさばいたために世界中に広がっていく。ヨーロッパ、インド、ベトナムで戦う兵士たちにも……。彼らは5年ぐらいで世界は変えられる、平和な世界が来ると楽観的に考えていたが……政府はそんなこと望んではいなかった!

 FBIは66年からスカリーやオーズリー・スタンリーを捜査していて、69年にティムは逮捕され、危険を察したニックはカナダへ逃亡するが20年後に捕まって刑務所へ送られる。フロリダの刑務所では差し入れでLSDを入手して(その方法が面白いんだが)所内で皆と一緒にキメて仲良くなっていたというからおかしい。さらに、ティムは刑務所内で心理学の博士号を取ったそうな。

 人一倍性欲が強かったというニックの複数の元カノが登場する。密輸や逃亡を手伝ったり、このドキュメンタリーの取材にも協力してくれている。さすが“愛のドラッグ”でつながった人たちだ。普通の男女関係だったら出てこないよね。まして「犯罪ほう助」してたって堂々と証言してるし……。

 一見、当時の記録フィルムかと思わせるモノクロ映像によるLSD製作現場が出てきてスゴイ! と一瞬思ったんだが、どうやら再現映像らしい。ニックやティムに似た俳優たちが演じているようで、てっきり本物に思えてしまうが、そんなLSD製作中の映像なんてあるわけないか、さすがに。さらに60年代のヒッピーや警察やC級映画みたいな映像も出てくるし、現在のニック・サンドとティム・スカリーが淡々と語り全裸でヨガしたりするので、見ているほうはなんだか映像LSDをやってるような気分になる。どこまでが本物なのか…現実は……? 素晴らしい編集だ。勝新太郎も歌っていた「サニー」のオリジナル(?)やベーブ・ルース(ロックバンド)の「メキシカン」とか、ストーンズやジミヘン、ビートルズみたいなありがち選曲(スコセッシだとやりそうだなあ)を敢えて避けている音楽もセンスがいい(単に予算が足りなかっただけかもしれないが)。

 まだ邦題がついていないまま配信されていた(ネットフリックスではよくあることで、後になっていつの間にか日本語題名に変わっている)ドキュメンタリーで、アメリカでは2017年1月に一般公開されたばかりとか。

2017/3/12 by 無用ノ介