ジャック・テイラー 私立探偵、現る

ヒーローのいるところ

Jack Taylor: The Guards
2010年 アイルランド+ドイツ カラー 86分 ネットフリックス配信
監督:スチュアート・オーム
出演:イアン・グレン、ノラ=ジェーン・ヌーン、ラルフ・ブラウン

 

 ちょうど実在した“ヒーロー”についての映画『ハドソン川の奇跡』(16)を観たすこし後に、ネットフリックスで発見した異色の探偵もの。異色というのは、アイルランドとドイツのテレビ局が合作していること。まるでイギリス包囲網だ。ただし、主演はスコットランド人のイアン・グレン、最近は『ゲーム・オブ・スローンズ』(11〜16)でおなじみだが、日本へきて篠田正浩の映画で(ソ連のスパイだったドイツ人)スパイ・ゾルゲを演じたこともある。

 アイルランド人らしくいつも酔っぱらっているジャック・テイラーは、職務中に酒を飲んで大臣を殴って警察を免職になり、探偵をはじめる。少女連続殺人が起きて、失踪した娘を心配する母親から仕事の依頼を受けるが、捜査の途中で何者かに襲われて左手を潰されてしまう。「探偵には忍耐と頑固さが必要。頑固さには自信がある」のが信条のジャックは、友人の画家サットン(ラルフ・ブラウン)の助けを借りて、少女たちを働かせていた地元の企業プランターズに忍び込み監視ビデオのDVDを手に入れる……。

 シリーズものの第1話となっていて、あまりにもひどいエピソード邦題がついているが、そもそも不規則だが年に1〜2本づつ作られている連作テレビ用映画なので一本の映画として観てあげたいところ。この第1作の原作は日本でも邦訳が出ているケン・ブルーウンの「酔いどれに悪人なし」。原題は「ガード」でアイルランドでは警察のことを「アイルランド治安防衛団」=通称「ガード」というらしい。パトカーには「GARDA」と書いてある。
 舞台はアイルランド西部の港町ゴールウェイ。ジャックは、(悪さをしていたらしい)大臣を殴ったことで庶民の英雄であり、アイルランドらしく町中にたむろしているアル中おやじたちとはみな顔見知り。老バーテンのショーン、禁煙できない牧師など大切な友人たちもいっぱいいる。原作では、酒を飲んでいないときは本を読むという読書好きぶりが紹介されていたが、ドラマでもさりげなくフランシス・トムソンの詩集「天の猟犬」を読んでいる場面が挿入されている。
 夜はライブハウスで歌っている婦人警官ケイトを『マグダレンの祈り』(02)のノラ=ジェーン・ヌーンが演じているが、第1回では紹介程度。画家役は『ウィズネイルと僕』(88)『エイリアン3』(92)のラルフ・ブラウンだ。

 朝ご飯にギネス、いつも天気が悪くてコートを手放せない(けちな警察から支給品のコートを返せといわれているがジャックは返さない)アイルランドの気候や風景、(街は違えど)映画『ONCE ダブリンの街角で』(06)を思い出させる街の様子も素敵だし、アイルランドのパブが何軒も登場するのも酒好きにはたまらない楽しみだろう。トリックがどうのという展開はなく、推理ミステリーものというよりも、これはアイルランドのヒーロー映画になっているようだ。

 ハンサムなのにしなびたシナチクみたいな魅力(そんなのあるんかいな)を放ちはじめているイアン・グレンを楽しみつつ、アイリッシュウィスキーでも飲みながらゆっくりシリーズを楽しみたい気分になれる。

2/15/2017 by 無用ノ介